動的保温(アクティブインサレーション)の本質はズバリ、レイヤリングだ

ウェアとギア

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スキー、スノーボード、アウトドアの雑誌で活躍するフリーライター&フォトグラファーでありながら、北海道でアウトドア用品店「Transit 東川」を営む林拓郎氏。
林氏による動的保温(アクティブインサレーション)の本質、そしてTeton Bros.のレイヤリングに関するコラムです。


レイヤリングについてはいまさら語るまでもないだろう。
アウトドアアクティビティでの体温低下というリスクを最小限に抑えるためには、汗冷え対策が欠かせない。そのために機能別のウェアを層(レイヤー)のように重ね、肌の汗を乾かして外気に放出しようというのが基本的な考え方だ。

さて、僕らは真冬の山中で雪を踏み分けてハイクアップし、寒風と粉雪を切り裂きながらゆったりしたターンを踏むことに大きな快楽を覚えている。この、寒い時期に激しく運動する人たちにとって、快適な保温は悩ましい課題だ。

まず保温とは、いかに空気を溜め込むか、であることはご承知の通りだ。しかも衣類の中に抱え込んだ空気はなるべく動かさずに維持したほうが暖かい。いわゆる動かない空気=デッドエアのキープだ。ダウンはこのデッドエアの保持に長けており、保温着としては非常に優秀なことは間違いない。
が、通気性や放熱性が低いためオーバーヒートして汗をかいたり、汗がぬけきらなくて汗冷えしたり、というデメリットも抱えている。

つまり、ジッとしているときの保温着としては優れているが、運動中に着るには適していない。

僕らが求めるのは、真冬の運動時にも汗を外気に放出する通気性を備えながら、効率の良い保温性をも発揮するという虫のいいミッドレイヤーだ。そして、この虫のいい要望をロジカルに解決するのが「動的保温着」なのだ。

通気性と保温性という相反する機能を動的保温着がどうやって両立させているかといえば、デッドエアのコントロールだ。

休憩時など、運動量が小さい時にはなるべくデッドエアを動かさないようにして温まった空気を保持し(静的な保温)、運動時は体の動きによってデッドエアをダイナミックに動かすことで衣服内に熱気がこもることを防ぎながら、通気性を確保する(動的な保温)。

こうした特性を実現するために、「Vivo」では保温性に優れたシート状の中綿に無数の穴を開けるという大胆な手法をとった。繊維を複雑に絡ませることでシートの中にデッドエアを大量に溜め込んで保温性を向上。同時にシートに穴を設けることで、熱気やムレを外気に放出するのだ。

左) 「Vivo Extream ECO Stretch」の素材形状。 右) Vivoを中綿に使ったTensleep Shirt。そのほかにもWapiti HoodyやHoback Knee Pantに採用している

また動的保温着は、その素材もスペシャルだ。たとえば「Octa」は中空構造と8本足のタコ足型断面といった非常に特殊な繊維を採用しているが、これによって軽さや保温性とともに、高い通気性や優れた吸汗速乾性を実現している。

左) 「Octa」の素材形状。突起の多い複雑な形状により、デッドエアを溜め込みやすく、優れた通気性も持つ 右) Octaを採用したSub Jacket

つまり動的保温着とは、濡れに強い素材で運動強度に合わせてデッドエアをコントロールする構造をつくり、低温下での高負荷活動に対応した高通気型保温着なのだ。
しかしこの動的なレイヤリングだけでは稜線の爆風に叩かれ、急激な冷気にさらされたときには耐えられないことがある。かといってシェルの下に保温着を着込むのは、通気性の良いミッドレイヤーを寒風に晒す行程が生じてしまう。

より機能的な解決策は、シェルの上からもう一枚羽織ることだ。HOBACK OVER HOODYはまさにこうした使い方のためにつくられており、低温下レイヤリングのバックアップ的役割を担っている。同時に、動的保温着内のデッドエアを効率よく閉じ込めることで、動的保温に特化していたレイヤリングを、一瞬で保温性重視の静的保温着に転換することができるのだ。

Teton Bros.定番のオーバーフーディをシェルの上から羽織る

すべてはリスクを低減して、安全に自然を楽しむためにある。
動的保温着は現場に必要な機能を理詰めで考えた先にある、テクノロジーとロジックの結晶なのだ。

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この記事を書いた人

林拓郎

林拓郎

スノーボード、スキー、アウトドアの雑誌を中心に活動するフリーライター&フォトグラファー。滑ることが好きすぎて、2014年には北海道に移住。旭岳の麓で爽やかな夏と深いパウダーの冬を堪能中。アウトドア用品店「Transit 東川」オーナー

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