2020.09.29
80%をカバーする、現実的レイヤリングの柱 「LONG TRAIL HOODY + CRAG PANT(MEN'S / WOMEN'S)」
スキー、スノーボード、アウトドアの雑誌で活躍するフリーライター&フォトグラファーでありながら、北海道でアウトドア用品店「Transit 東川」を営む林拓郎氏から超撥水のお墨付きレポート!
手にしただけでは今ひとつピンとこないが、実際にその機能を見せつけられると驚きを通り越して爆笑してしまう。Teton Bros.のラインナップの中にはそうしたクレイジーなプロダクトが存在している。春夏物の中で具体的に言うなら、ロングトレイルフーディーとクラッグパンツだ。これらの製品がぶっ飛んでいるのは、笑ってしまうほどパワフルな撥水性を備えている点にある。
撥水性といえば、雨粒が生地の上を転がっていくような状況を思い浮かべるだろう。が、Teton Bros.の撥水性はもっと骨太だ。大量の水をざぶざぶかけても、水はなんの抵抗もなく、生地表面をつるつると滑り落ちていく。採用されているのはDry Action(ドライアクション)という技術。生地を構成する繊維一本一本を処理ことによって生み出される、圧倒的な撥水性がその正体だ。が、それゆえ、ロングトレイルフーディーやクラッグパンツはすくった水をそのまま運ぶことができるほどだ。防水じゃないのに! 布なのに! 撥水するから! 水をすくえる!! まさに驚いて、あまりのことに笑ってしまうほどのクレイジーな機能性なのだ。
※2023年現在※ ロングトレイルフーディーは春夏でHead Wall Hoody(Dry Action Soft Shell)として展開。クラッグパンツは秋冬製品(Graphene Soft Shell素材に変更)としてアップデートしています。
それでいながら水が溜まった生地をギュッと握れば、生地の間から水が流れ出てくる。これは生地に通気性が確保されていることの証拠だ。つまりロングトレイルフーディーやクラッグパンツは高い撥水性による水を遮る能力(後述するが、水圧がかかると水は生地を通過するので、防水性はない)と通気性を程よく兼ね備えている。それはソフトシェルの着心地に、実用に役立つレベルのハードシェル性能を持たせていると言ってもいいだろう。
そもそも山歩きは「好天前提」であり「悪天候にも備える」事が鉄則だ。言い換えればアウトドア活動は好天、もしくは好天と悪天の間でおこなわれることがほとんど。ならば、何でもかんでもヤバい悪天に備えた装備である必要はない。悪天を心配しないで済む日なら、快適なソフトシェルをとりいれて好天を楽しんだほうが楽しく快適ということもあるはずだ。こうした考え方に立てば、好天を前提にした「現実的なレイヤリング」が成立するのではないか。ロングトレイルフーディーに触れて以来、そうした考え方にシフトしてきたのも事実だ。
というのも、筆者はロングトレイルフーディーを冬のバックカントリースノーボーディングのハイクアップ用シェルとして導入した。生地に適度な通気性があってフルジップで体温調整がしやすく、形の良いフードと高い撥水性のおかげで雪や小雨を気にする必要がなく、4方向ストレッチのおかげで動きやすさを損なわない。ハードシェルを用意した上で、好天時にはソフトシェルを多用する。この発想には晩秋から厳冬期、春、そして夏まで違和感を感じなかった。結局ほぼ9ヶ月以上に渡って毎日のように着ているというヘビーローテーションぶりだ。
またロングトレイルフーディーを知ったことで、2020年早春には同素材のクラッグパンツを入手。全身高撥水衣類に包まれたことで野外の活動様式は一変した。なにしろ水濡れに怯える必要がない。そこから生み出されるおおらかな安心感が、すべてのフットワークを軽くしてくれているのだ。
たとえば夏の北海道の山歩きは朝一番がハイライトだ。カリッと晴れ渡った空のもと、高緯度地方独特の澄んだ空気に包まれる。眺望はどこまでも続き、風はやさしくそよぐ。ヒバリに混じって、時にギンザンマシコのさえずりが響き渡る。この世の楽園とも思える時間帯だが、歩けば朝露でスネから下はびっしょり濡れてしまう。そのためこんなにも美しい景色の中、ルートによってはレインウエアのパンツだけを履いてから歩き出す覚悟が必要だ。晴れているのに、蒸れて不快なレインウエアに足をくぐらせる決心が必要なのだ。
ところがクラッグパンツなら、朝露を気にすることなく爽快な空気の中を歩くことができる。もともとクライミングパンツとして作られているだけに、足運びの軽さも抜群だ。歩いている間、生地越しに朝露の冷たさは感じている。が、生地には染みていないので、草の海を抜ければ10分で完全乾燥終了。状況の変化にとらわれず、快適性と活動性を最大限にまで追い求めることができる。これが超撥水ウエアの魅力だ。
というわけで筆者は現状、毎日往復20kmの自転車通勤から低山散策、アルパインエリアの山歩き、ちょっとした釣りなどはすべてロングトレイルフーディーとクラッグパンツでこなしている。こなしているというよりも、不満がないので他のウエアを引っ張り出す必要性を感じないでいる。これさえ着ていれば、アウトドア活動の80%はカバー可能。小雨程度ならレインウェアを出すことなく歩き、漕ぎ、釣ることができる。
驚いたのは高い撥水性は汚れもつきにくくするという点だ。雨上がりの舗装路を漕ぎきったドロ汚れも、サッと拭けばすぐに落ちてくれる。この点に気づいてからは、庭の草むしりや家庭菜園の手入れにも重宝している。快適で動きやすく上、土で派手に汚れても手で払えばOKなのだ。自転車のチェーン油がついた裾も、布で拭くだけで汚れは落ちてしまった。さらに汗なども残りにくいようで、長期間着ていても汗臭くなりにくい。まさに万能野外着。付け加えるなら、岩場で多少こすったくらいではへこたれない生地の丈夫さも備えている。
とは言え、やはり物事には長短がある。外からの雨をガンガン弾く生地は、当然のように汗も弾いてしまう。多量の発汗が続くと内側に汗が溜まってしまうのだ。特にパンツは素肌に直接触れることになりやすいため、汗濡れ時の不快さを感じやすい。
また、優れた撥水性も圧力がかかればひとたまりもない。大雨や横殴りの雨だけでなく、バックパックのストラップ部分なども雨量によっては生地にしみてきてしまう。自転車で雨に降られた際も、上半身はなんともないが体重のかかるサドル周りは盛大に水染みが見られた。
このようにロングトレイルフーディーとクラッグパンツは、雨や風に備える悪天候にも耐えるウエアではない。しかし全天候ではない割り切りにこそ、この製品の意味がある。これは外遊びのほとんどの時間を過ごす「好天」に対応した「現実的なレイヤリング」を実現するウエアであり、好天が悪天に変化する際に潜む現実的なリスクをフォローするプロダクトなのだ。
アウトドアでは安全性を考えるあまり、オーバースペックな装備を求め、余計な用心をしてしまうことがある。が、そうした装備や用心はフットワークを低下させ、時にアウトドア本来の楽しみを阻害してしまうことになりかねない。アレがないと心配、あの機能がないからこんな時に困る、と考えていては、装備は重くなるばかりだ。そうではなく、コレがあるからここまでできる、と考えて可能性を拡大する。そんなアクティブな発想こそが、このプロダクトをこんなにもクレイジーに、そして魅力的に仕上げているのだ。
なお念のために付け加えておくが、ロングトレイルフーディーもクラッグパンツも、メンズ&ウィメンズがラインナップしている。驚きの撥水性を、老若男女すべてのアウトドア好きに体験していただきたい。
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