ソフトシェルの軽快さを備えたハードシェル [TSURUGI LITE JACKET]

製品レビュー

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スキー、スノーボード、アウトドアの雑誌で活躍するフリーライター&フォトグラファーでありながら、北海道でアウトドア用品店「Transit 東川」を営む林拓郎氏から、今期「Täsmä」を採用してアップデートしたTsurugi Lite Jacketについてレポートしていただきました。


Tsurugi Lite Jacketを4ヶ月に渡って使ってみた。まだまだ使うごとにその魅力がじわじわと湧き出てくるアイテムだが、すべてを味わい尽くそうとするとグリーンシーズンが終わってしまう。このあたりで中間報告としてその使用感をお話しておこうと思う。

Tsurugi Lite Jacketのポイントはふたつある。

ひとつめは快適さだ。そんなことは分かっている、と言われるだろう。だが、快適という感覚は自己主張をしない。それ単独では、その状況がいかに心地よいものかを意識することは難しい。
Tsurugi Liteの快適さを知ったのはある初夏の山行だ。雨降りだったので軽い気持ちでクラシカルな防水透湿メンブレンのレインウエアと着比べてみたのだ。クラシカルなそれの使い心地はよく知っている。レインウエア内にムレを感じるが、そもそも雨の日は湿気が高いものだ。いつの間にか内側が結露していることもあるけれど、直接雨にあたって全身が濡れることに比べれば遥かにマシだし、雨の日はこういうものだと納得していた。しかし、上着をTsurugi Liteに着替えたとたんに気づいてしまった。あれは納得していたのではなく、諦めていた。そういうものだと思って、不快さを手懐けていたのだ。

Tsurugi Liteには蒸し暑い部屋の中で体を動かしているような、あの重苦しさがどこにもない。本当に、ウエアの中のムレや熱気が染み出していくかのようだ。もしもTsurugi Liteだけを着ていたとしたら、今日は意外に心地よい日だったな、で終わっていただろう。蒸し暑くて不愉快、という感覚がスッと消えていく驚きは、比較しなければ分からなかっただろう。

里山での夕立。1時間20mmの雨に叩かれながら。

この圧倒的な快適さこそTsurugi Liteの強みだ。そしてその、着続けていられる快適さを担保するのが、Teton Bros.と東レが3年以上の歳月を費やして開発した次世代素材「Täsmä」なのだ。なにしろ2022年から採用されているTäsmäのスペックは、それまでTsurugi Liteに採用されていたメンブレンと比較して通気性をアップし、耐水圧は2,000mmも上回った。

濡れをカットしつつ、ムレる前から通気によって不快さを解消する。Teton Bros.が長年取り組んできた、大自然の中での安全性と快適さを解決する手段として、Täsmäは現在もっとも進んだポジションにある。

とは言え、Tsurugi Liteはレインウエアとしてデザインされているわけではない。ファスナー内側のフラップがないことから、高い水圧のかかる豪雨の中で長時間行動すればファスナー部から浸水する可能性があることも知っておくべきだろう。しかし、それは知識として備えておくべきことだ。4ヶ月のロードテストの間、Tsurugi Liteをレインウエア代わりに使ってみたが、ファスナー部からの浸水が気になったことは一度もなかった。通常のアクティビティを想定した時、防水性を含めたその快適さは、ある種のレインウエアを遥かに凌ぐことも事実なのだ。

傘を持っていなかった自転車通勤路で。実はかなりの豪雨で、このくらいの雨量でないと雨粒は写らない。撥水性が高いので、通常の雨では瞬時に雨粒を弾いてしまうのだ

ふたつめの魅力はTsurugi Liteのデザインコンセプトが生み出したものだ。
開発段階から重視されたのは軽さだが、その実現のため表地には20Dという細い織り糸を使用。ややシャラシャラした感触はあるものの着心地は軽快だ。さらに裏地には10Dニットバッカーを採用していることで、Tシャツの上に直接羽織っても腕にイヤなベタツキ感はない。
また、この生地はTäsmäと共にストレッチ性を備えており、ひじの曲げ伸ばしや腕を大きく上げるようなムーブにもつっぱり感がない。このためパターン自体も細身に追い込むことができることとなった。結果として生地の使用量そのものを低減させて軽量化に貢献し、あわせてムダのないシルエットは強風時のバタつきを抑えていることにも触れておきたい。

明け方まで雨が降っていたせいで草木は濡れており、残った小雨で終日湿気った山行となった。それでも上半身はドライ。夏ということもあり、下半身は濡れても気にならないので、元から雨具の想定はしていない

こうした結果、Tsurugi Liteはちょっと天候が怪しいときに羽織っておく軽量シェルとして抜群の使い勝手を備えた。もちろんTäsmäのおかげでムレ知らず。好天下で行動してもなんら不満はなく、万一の雨や風に遭遇した際にも抜群の防水性によって余裕のある対応が可能になる。
事実、この夏を通してTsurugi Liteが実力を発揮したのは、雨こそ降らなかったけれど湖風の強かった島の旅、台風の影響で小雨が予想された山行、盛夏の下山途中に遭遇した強烈な夕立、そして気温が下がってきた晩夏のキャンプや霧雨の中でのマウンテンランなどだ。
つまり、どういう状況でも対応する軽快な着心地で天候の変化を穏やかに受け止めながら、イザとなれば抜群のプロテクション能力を発揮する。

強風のイワオヌプリ山頂

この、ハードシェルのスペックを備えた軽快なソフトシェル、というキャラクターこそがふたつめのポイントだ。

実を言うと夏のテストの間、Tsurugi Liteに興味を持つ何人かの方から、このジャケットをどう使えばいいのかわからない、という声を聞くことがあった。具体的な使いみちをイメージすることができず、どんな状況にフィットするのか今ひとつハッキリしないのだと。
無理もない。Tsurugi Liteは「こういうウエアはこう使うといいですよ」というマニュアルを軽々と踏み越えてしまうくらい守備範囲が広い。これはソフトシェルですか? ハードシェルですか?という基本的な質問さえ役に立たないものにしてしまった。だからこそ、従来型のレイヤリング例に照らしても収まりどころが見つからないのだ。しかし、そのフリースタイルな機能性こそ、Tsurugi Liteのアイデンティティーだ。

ソフトシェルの気軽さと軽快さをもちながら、ハードシェルなみのプロテクション機能を備えたマルチプレイヤー。Tsurugi Liteが活躍する場は無限にある。ここはむしろ具体的な使いみちを考えるよりも、身近においてみてほしい。フットワーク良く使い重ねていくことこそ、この製品の性能をフルに引き出し、思いがけないフィールドで役立つきっかけに繋がるだろう。そして気がつけばいつもTsurugi Liteを着ていたという、アウトドアに欠かせないアイテムになるに違いない。

防水透湿(防水通気に変更)性を備えながら、ここまでストレッチする。そのことが、軽快な着心地をさらに快適なものにしている

すべての縫い目にはシームテープが貼られているが、使用状況とのバランスでファスナー部にフラップはない。襟の内側にはフリースを配置して肌当たりを良くしている

フードアジャスター。ワンタッチで閉め具合の調整が可能

フードのアジャスターワイヤーはフードに直に、ではなく、専用のスリーブを設けてレイアウトしている。こうすることで、アジャスターをしっかり締めてもフードによって首の動きが制限されることがなく、視界も確保できる。細かい部分で手を抜かない、Teton Bros.らしいこだわりだ

裾のドローコードは右側一箇所。背中側が長いロングテールになっている上、裾の内側にはスレ防止を狙って滑りの良いナイロン生地が配置される

シャーリングは手首の内側だけ。動きの大きい手首外側がスッキリするだけでなく、時計を見る際にも引っかかりがない

ポケットは胸に一箇所。内側がメッシュになっているのでベンチレーターとして使用可能。またファスナーはダブルスライダーで、上下どちらからも開けることができる

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この記事を書いた人

林拓郎

林拓郎

スノーボード、スキー、アウトドアの雑誌を中心に活動するフリーライター&フォトグラファー。滑ることが好きすぎて、2014年には北海道に移住。旭岳の麓で爽やかな夏と深いパウダーの冬を堪能中。アウトドア用品店「Transit 東川」オーナー

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