変化球の快適タフネス FRICTION PANT

製品レビュー

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スキー、スノーボード、アウトドアの雑誌で活躍するフリーライター&フォトグラファーでありながら、北海道でアウトドア用品店「Transit 東川」を営む林拓郎氏からTeton Bros.の人気商品「Friction Pant」のレポートが届きました


Teton Bros.ファンを自認する方の多くは、そのクレイジーな機能性こそを評価しているに違いない。すべての製品はコンセプトを煮詰めた後、ギッチギチに無駄なく研ぎ澄まされる。まさにキャッチャーが構えたミットの真ん中に投げ込まれる豪速球の如く、骨太な真っ直ぐさを与えられて、毎回スパーンといい音をさせているのだ。
が、ときにその球を握るチカラが強すぎるのか、思わぬスピンがかかってしまうことがあるようなのだ。球はミットの真ん中に叩き込まれてはいても、観ている方にはこれまでとは違った球筋に見えてしまう。すると、そこには薄っすらと、こんな空気感が漂うのだ。
アレ、いつもと違う? Teton Bros.っていつでも豪速球で勝負してくる熱血疾走野郎じゃなかったの?
この夏、フリクションパンツを履き込んで考えていたのは、そうした「ズレ」の感覚だ。

「ズレ」は今までと同じ物語を求める人にとっては、期待はずれにつながる。しかし「ズレ」は可能性の兆しでもある。

変化球の快適タフネス FRICTION PANT

山を歩いたり自転車に乗る時にはクラッグパンツやリッジパンツがぴったりだが、リラックスしたキャンプや散歩にはフリクションパンツがもつ独特の「ユルさ」がフィットする。もちろん機能性をこれでもかと追求しているけれど、今回はそこを追いかけていたら別の最適解が見つかってしまったパターンだ。結果、上の写真のような状況がものすごく心地よいパンツに仕上がった。

そもそもフリクションパンツはTeton Bros.が、生地メーカーであるコーデュラ社のある製品に巡り合ったことから生まれている。その素材は4方向に良くストレッチしながらも、抜群の耐摩耗性を備えていた。こんな生地を目にしたら「いい感じ」のクライミングパンツを作りたくなるのがTeton Bros.なのだ。

そこでノビノビのストレッチ生地に加えて、すんげぇ足の動きが自由になるパターンを作れないかと奮闘し始めた。文字で書くと「奮闘し始めた」の6文字だが、実際には数ヶ月を費やし、沢山の人が泣いたり笑ったり悔しがったり小躍りして喜んだりした。最終的には脚部の生地を螺旋状にカットすることで縫い目を最小限に抑え、足の曲げ伸ばしをじゃましないオリジナルなパターンを生み出したのだ。

シルエット自体、フリクションパンツはこのコラムで取り上げてきたクラッグパンツやリッジパンツとは別の考え方で作られている。それはナチュラルであること、だ。ラインはストレートで素直。あえて例えるならその形は70年代のストレートジーンズに近い。ポケットも完全にデニムテイスト。こうして股上はやや浅く、ウエスト周りも適度なフィット感を与えながら脚全体にはリラックス感をもたせるという、ヒッピーライクで20世紀フレイバーのクライミングパンツが出来上がった。

と、ここまでが剛速球スタイルバリバリのステージ。素材の特徴を活かし、自分たちが求める製品を、完全にコンセプト主導で作り上げたのだ。が、そこに思わぬスピンがかかっていた。

苦労の末に作り上げたパターンは180度開脚でもストレスを感じさせないという、恐ろしく自由度の高いものだ。その縫い目はこれまでのパンツとは違って、螺旋状に脚を回り込んでいく。その結果、太ももやふくらはぎの内側に縫い目がレイアウトされなくなってしまった。

変化球の快適タフネス FRICTION PANT

脚を螺旋状に巻き込んでいくカットがよく分かる。ひざの屈伸を妨げないパターンは、ふとももやふくらはぎの内側に縫い目をつくらない。そのことが、このパンツの快適性を何倍にも向上させている。

この、内側に縫い目がないことの快適さは想像もしていなかった。歩いていても座っていてもテンションがかからない。それはスウェットやショーツの心地よさそのものだということを改めて知らされることになり、「やべぇ、なんかこのパンツ、めっちゃ気持ちいい。」という評価がうまれることになった。

また、その特性はコーデュラ社のカタログにも記されておらず、Teton Bros.としてはまったく期待していなかったものなのだが、試作したパンツに足を入れてみるとわずかながらヒヤッとした冷たさを感じたのだ。あれ? この生地って触ると冷たいよね。実は触れることによって、素材が一気に肌の熱を奪う「冷感接触」と呼ばれる効果を、この素材は持ち合わせていたのだ。
しかも生地はテロンと柔らかい。数値上はリッジパンツの232gに対して265g(Mサイズ 実測)だが、履いた感じはフリクションパンツの方に軽快感を覚える。というのも表面の触り心地もスルッとしてしなやか。濡れても肌に張り付かない。どんな状態でも肌の上を滑らかに滑っていく感じは、低フリクションの快適な履き心地を与えてくれたのだ。

こうして動きやすい素材というきっかけで始まったプロジェクトは、リラックスできるパターンや心地よい履き心地という要素を備えていった。
加えて、生地はタフで濡れにも強く、速乾性を備えている。テーパードしていないシルエットは街着にもマッチしやすく、長時間履いても疲れない。こうなると着地点は一箇所に絞られる。

フリクションパンツは、もしかして最高のアジア方面向きバックパッカーパンツなんじゃないのだろうか?

折しも。今年の関東は長梅雨で蒸し暑い天気がつづいた。すべての木綿製品は湿気を吸って重くなり、足元は常に雨で濡れていた一ヶ月だった。そんな都内を歩くときも、フリクションならかなりマシ。イージーな使いやすさと、緊張感の伴わない雰囲気は、サンダルとも最高の相性を誇る。これなら足元も豪雨対応だ。即乾性を備えているので、パンツの裾が濡れても電車に乗っている間に乾いてしまう。残暑に向かうこれからも、冷感接触はいいタイミングで冷たさを感じさせてくれるし、サラサラの生地は湿気って足に張り付いて鬱陶しいということにはつながらない。
今年の東京の不快な状況にも対応できたんなら、たいがいのところで平気なんじゃないの?

つまり、すんげぇムーブにも応えるクライミングパンツを作ろうとして力いっぱい投げ込んだら、思わぬメリットがつぎつぎに出てきて、最終的には最高のオールマイティ旅パンツになってしまった。それがフリクションパンツの実態だ。

変化球の快適タフネス FRICTION PANT

新型コロナウィルスの影響で、今は旅をする機会は減った。それでも数少ない移動の際には、荷物にならず、快適で、見た目がだらしなくならないものを選びたいと思っている。フリクションパンツは、そうした身軽な旅のパートナーとしては最適。ちなみに写真で着ているのはTeton Bros.の「ランシャツ」。超撥水でストレッチな襟付きシャツは、打ち合わせから裏山歩きまで幅広く使い回すことができる。

考えてみればTeton Bros.のプロダクトの中にはクライミングサーフショーツだったりアクシオだったり、テクノロジーで快適さに向かい合った製品が山ほどある。フリクションはそうした快適さグループとバリバリ機能性グループを緩やかに橋渡しする製品だ。集合のベン図で言ったら、ちょうど真ん中の重なってるところ。だから一言で、その魅力を表すのが難しい。言葉をどれだけ重ねても、このノンストレスな動きやすさやユルユルのリラックス感、そして気持ちのいい冷感接触のフィーリングを伝えることはできない。けれどその底力を知ったら、多分もう手放せない。

なにしろ機能も快適さも程よくカバーして、全方位的に凹んでいるところがないのだ。もちろん剛速球は剛速球として魅力的だ。けれど、この変化球があることで、勝てるゲームは少なくない。

(ライター:林拓郎 / Photo:PECO)

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この記事を書いた人

林拓郎

林拓郎

スノーボード、スキー、アウトドアの雑誌を中心に活動するフリーライター&フォトグラファー。滑ることが好きすぎて、2014年には北海道に移住。旭岳の麓で爽やかな夏と深いパウダーの冬を堪能中。アウトドア用品店「Transit 東川」オーナー

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